アメリカンドリームを果たした、とある移民家族の物語。

イタリアにしばらく滞在していました。

国の真ん中くらいにあるウンブリア州の小さな街にホリデーホームがあり、年に2回ほど訪れます。

 

ホテルではないので、いわゆる暮らすように旅するステイ。よく自炊をするので、市場やスーパーに日々出向きます。

 

 

さて。そんな中での小話、、、

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街中のスーパーの入り口に、2年程前からいつも立っている黒人男性がいる。
カジュアルな服装で年齢は30代後半と想定。

 

スーパーの入り口で何をしてるのかいうと、買い物客に挨拶をしながら、何か助けを必要としている人を見つけてちょっとした小金を得ている。

 

あるときは、ベビーカーを段差の上にあげるのに手こずっている家族に手をかしたり。 また別の日は買い物で手がいっぱいになってしまった足腰の悪いおばあさんの荷物を持って家に送り届けてあげたり。

 

その結果、お手伝いしてもらった人の何割かが、幾ばくかの小銭を彼にお礼として渡している。

もちろんこれはスーパー側の社員でもなければ、スーパー側公認のフリーランス便利屋でもなく。

ただ現状として彼はこのスーパーの入り口付近を拠点とした便利屋を生業としている。

 

数年前に見かけたときは「ちょっと怖い、、?」と思ったけれど、今や顔馴染みなので、スーパーを通りかかるときは「ボンジョルノ」と挨拶をする。

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ある日、家族でこのスーパーで買い物をしていて。会計が終わったので使った買い物カゴをもとに戻そうとしていたところ、便利屋の彼が颯爽とやってきて、カゴを戻してくれた。

そして、スーパーから出る際に階段があるのでベビーカーを持ち上げようとしたら、すかさず手を貸してくれた。

お礼を言いながら、もんやり考えてしまったこと。

 

 

「確かに彼は悪い人ではない、、雨の日も風の日も出勤して市場のニーズを察知して価値提供しようとしている努力は偉い。でも、さっきの件に関しては、お手伝いしてもらわなくても自分でできたんだよね、、。 カゴは自分で戻せるし、うちのベビーカーは軽量だから楽に抱きかかえて階段上り下りいつもしてるし、、。 いずれにせよ、お礼をいうべきことだけど、元々ニーズでなかった事態に対応してもらってお金をあげるのは正しいのかな。  というかあげてもいいんだけど、それは長期的にみて彼のためになるのか? 彼もそうだけど、これはこのイタリアの田舎街の人たちが困るんじゃないのかな、、? この街はよくお金を恵んでくれるぞ、、ということになったら他の移民達がそれ目当てにたくさん来てしまったら、、?  」

 

 

とかなんとか考えているうちに、夫は財布を開いて小銭をあげているではないか。

 

帰り道に、上記の心のもやもやを話しながら夫にねえあれどう思う? と聞いてみたら、ポツポツと語ってくれたこと。。

 

 

 

「僕のひいおじいさんさんはね、北イタリアの貧しい村の出身で。

アメリカ大陸に移住するために、何年も何年もワイナリーで葡萄踏み( 破砕機の無かった時代、収穫したぶどうを足で踏んで破砕してた)として働いてお金をためたんだ。

山を越えての出勤なんだけど、帰り道に焚き木になりそうな薪を拾って自分の村で売ったりもしてさ。

 そして十分なお金を貯めたのち、胸に大きな期待と夢を抱いてアメリカ大陸行きの船に乗り込んだのが僕のひいお爺さんと子供二人、そしてひいおじいさんのその弟。

 

何週間もかけてたどり着いたものの、残念なことに弟の方が必要な文書が足りなくて、またイタリアに強制送還されちゃったんだよね。

彼の方はまた何年も何年もお金をためて船のチケットを買って、カナダ方面から大陸入りすることに成功して。

カナダで糸巻きを訪問販売しながら南下しいって、何年か後にアメリカのニューイングランドに到着したんだ。そこには既に僕のひいおじいいさんを含むイタリア系のコミュニティがあって暮らしていた。

 

で、ひいお爺さんの方なんだけど。彼は既にアメリカで採石場の石切り工として働いていて、ここで起業家精神を発揮するんだ。

採石場の地主に、採石場の周りの土地を農地として貸し出したらどうかと持ちかけた。

貸し出す対象は地元のイタリア人なんだけど、なんせ彼らは英語が流暢じゃないかから、ひいおじいさんを仲介した賃貸ビジネスとなる。

そして更にその農地で使う農具やトラックなんかを調達して、イタリア人達がリース契約できるようにしたんだ。

トラックは買ったわけじゃないよ。自分が石切り工や土地の仲介ビジネスで貯めたお金を使って、一定期間何処かから借りて又貸しの利ざやで稼いだんだ。自分のコミュニティと現地のアメリカ人の橋渡し的なポジションでね。

 

で、その息子が僕のおじいさんなわけだけど。彼も農業に携わって、小さい頃から家畜の世話をしてて、その経験を生かしてのちに肉屋を開業するんだ。

 

肉屋の次はミートロッカー(肉用倉庫)。パン屋。ランドリー屋。生きるためには色々なビジネスに手を出したらしい。後、東海岸で初のドライブインのムービーシアターを開業させたのは彼だよ。

 

なんで普通の仕事を探さないかって? 誰も雇ってくれないから開業するしか生きるすべがないんだよ。

ちなみにこのおじいさん、小学校中退してるのにも関わらず商才があったから、一時期は街の長者番付一位だったこともあるんだよ。ちょっとすごいでしょ。

 

当時、イタリアからの移民なんて差別されたり蔑まれたりされたことなんてたくさんあったと思うよ。

それでも、カナダで糸巻きを買ってくれた人とか、石切場でお情けで雇ってくれた人とかの優しさが積み重なって、大陸でなんとかスタートを切ることができたんだよ。

 

彼らが上陸の時点でポシャてったら、父や僕の代で教育を受けて職を得て、こうして祖国のイタリアに戻ってホリデーホームを買って、君とこの子と一緒に夜ご飯の買い物を近所のスーパーでする、なんてこともありえないわけ。

そういう家族の歴史があるから、どうしても彼みたいな人は無視できないんだ。

 

僕らはさっきの黒人の彼の境遇はわからない。でも悪い人じゃなくて勤勉そうだと思う点では一致してるわけだよね。

想定するにアフリカからの移民で、南から北を目指してこの街にたどり着いたのはいいけど、仕事が見つからない、雇ってもらえない。だから、ああやってスーパーの前で人助けして小銭を稼いでる、っていう線が濃厚じゃない?

 

詳しい事情はわからなくても、僕たちがちょっと優しさもを心に持つだけで開ける彼の未来があるかもしれないじゃない?」

 

 

 

私は、いつのまにかほんのり涙の滲んでいる目で空を見上げた。

 

そしてこの壮大なクロニクルの次の担い手であるイタリア系アメリカ人四世/日系ハーフの娘の暖かく小さなマシュマロみたいな手をギュッと握った。

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アメリカンドリームを果たした、とある移民家族の物語。」への6件のフィードバック

  1. Brightest Bug より:

    素敵なお話ですね!うちの旦那のおじいさんもおばあさんもヨーロッパからカナダに移民して、やっぱり似たような感じで色々な物を売ったり、ある年には車の故障を直すガラージを経営したり。チップ文化もあるから人に小銭をあげる、って行為はすごく身についてますよね。

    ヨーロッパはタダでさえ物乞いが多いので最初はみんなに小銭を渡していたら、「あれは本物のホームレスじゃなくてジプシーだよ。お金を渡すと犯罪組織にお金を渡していることになるよ。」と言われてやめてしまいました。今では音楽を弾いている人にしか渡しません。(それなりのエンターテイメントをしてもらっているから)
    スーパーの前のおじさんもよく小銭を渡していたんですが、なんかそのうち「うちまで買い物持ってくの手伝ってくれたらお金もう少し渡すよって言おうかな〜」なんて旦那に言ったら「バカヤロウ、あの人はジプシーだからあそこに座ってお金を稼ぐのが彼の仕事なんだよ」って叱られました。
    スーパの便利屋さんのお兄さん、ぜひうちのスーパーにも来て欲しいです。笑

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    • コンソリーニ•恵 より:

      笑 私もこの話を聞いて物乞いに遭遇するたびにどういう行動をとるべきかめっちゃ考え込むようになりました。でもbrightest bugさんと同じく音楽演奏してる人にはお財布の紐が緩んでしまいます..! (夫は結構よく彼らのCD等も買っています。)
      ジプシーの見分け方、何かコツがあったら教えてください..!

      日本(香港でも)ではお目にかかったことがないのですが、スーパーから家がちょっと遠いので子連れの時は特に、ここはリアルに便利屋が常駐してて欲しいんだけどな、、と思っています。笑

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  2. yoko より:

    日本ではあまり遭遇しないシチュエーション。そして、すごく可愛い街に年に2回もホリデーで過ごせるなんて!!

    素敵なストーリー、一気に引き込まれたよ〜!ゼロからたくさんのイチを創った先代のDNAがまた次の世代に受け継がれていくんだね。メグさん家から目が離せないわ〜

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    • コンソリーニ•恵 より:

      ちなみにうちは両親の代以前はずっと代々日本だったのだけど、父方が奈良の過疎地の出で、おじいちゃんが木こり兼ゴールドハンターだったそうで(金脈は見つからなかったよう)そっちのストーリーも今度父に会ったときに追求してみようかと思ってるところ…笑
      世代単位で見ると、どの家も結構山あり谷ありのドラマがあるのかな、と思う今日この頃。

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  3. アン より:

    私も生まれた国と育った国が違うため、共感するところが多く、ブログいつも楽しみにしています!
    今回は特に素敵なお話でじんときて、思わずコメントを残しました。これからも楽しみにしていますね!

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    • コンソリーニ•恵 より:

      訪問頂きありがとうございます!
      自分の生い立ち故、文化と文化のスキマ的な話にいつも心が揺れるんですが、お付き合いいただけて嬉しいです:) ささやかなブログですが引き続きどうぞよろしくお願いします♪

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